最近、アスクルやアサヒグループホールディングスといった名だたる大企業へのサイバー攻撃が発生し、その被害の甚大さが連日報道されました。あれほど強固な対策を講じていたはずの大企業ですら被害に遭うとは、正直なところ思いもよりませんでした。
一方で、多くの中小企業には専門のシステム部門がありません。総務や経理の方が「兼任システム管理者」として、本来の業務の合間を縫ってシステムのお守りをしているのが実情ではないでしょうか。
こうした事件が起きると、経営者から決まってこう聞かれます。
「うちのセキュリティは大丈夫か? ちゃんと対策しているのか?」
突然の問いに、ドキッとしつつも「(とりあえず)ルーターを入れていますから、たぶん大丈夫です」などと返答してしまっている管理者の方いらっしゃいませんか?

そこで今回は、サイバーセキュリティ対策の要(かなめ)とも言える「UTM(統合脅威管理)」についてお話しします。マルウェアやフィッシングなど、様々な脅威に対して非常に有効なツールですが、実は中小企業の約8割が未導入と言われています。そもそも、なぜ「ルーター」だけでは不十分なのか?経営者に「ルーターがあるから平気」と答えてしまった手前、今さら聞きにくいかもしれませんが、実は一般的なルーターには、ウイルスや不正アクセスを防ぐ機能はほとんどありません。
これを家に例えてみましょう。
ルーターは
玄関の「ドア」です。鍵はかけられますが、鍵を持っている人(正規の通信)なら、泥棒でも強盗でも通してしまいます。
UTMは
玄関に立つ「警備員」です。通る人すべての荷物検査を行い、危険物を所持していないか、ブラックリストに載っている人物ではないかを瞬時にチェックし、怪しい場合はブロックします。

昨今のサイバー攻撃は非常に巧妙です。正規のメールを装ってウイルスを送りつけたり、社員が閲覧したWebサイトからこっそり侵入したりします。これらは「ドア(ルーター)」を普通に通過してしまうため、その内側で中身をチェックする「警備員(UTM)」が必要不可欠なのです。
UTM(統合脅威管理)が中小企業に最適な3つの理由「セキュリティ対策」と聞くと、難しい設定や高額なソフトが必要だと思うかもしれません。しかし、UTMこそが、時間も予算も限られる「兼任管理者」の救世主となり得ます。
1. 「全部入り」だから管理がラク。UTMは Unified Threat Management の略で、日本語では「統合脅威管理」と呼ばれます。
- ファイアウォール(不正アクセス防止)
- アンチウイルス(ウイルスの検知)
- アンチスパム(迷惑メール対策)
- Webフィルタリング(危険なサイトへのアクセス禁止)
これら複数の機能が1つの箱(ハードウェア)に詰まっています。 パソコン一台一台に複数のソフトを入れて管理する必要がなく、オフィスの出入り口(インターネットの接続点)に一台設置するだけで、会社全体のセキュリティレベルを一気に引き上げることができます。
- コストパフォーマンスが良い。それぞれのセキュリティ機能を個別に導入すると、ライセンス料も管理工数も膨れ上がります。UTMなら1台の導入で包括的な対策ができるため、結果的にコストを抑えられるケースが多いです。
- サプライチェーン攻撃への備え。「うちは盗まれるようなデータがないから」というのは過去の話です。最近では、セキュリティの堅い大企業を直接狙うのではなく、その取引先である中小企業を踏み台にして大企業へ侵入する「サプライチェーン攻撃」が増えています。取引先への責任を果たすためにも、UTMによる最低限の「防衛ライン」構築は、いまやビジネスマナーとなりつつあります。
導入する際に気をつけるポイント「じゃあ、すぐに導入しよう!」となった際、選定で失敗しないためのポイントは以下の2点です。
スループット(処理速度)を確認する
UTMは通信の中身を全てチェックするため、性能が低いものを選ぶと「インターネットが遅い!」と社員からクレームが来る原因になります。自社の利用規模(PCの台数や通信量)に見合ったスペックのものを選びましょう。
サポート体制の手厚いベンダーを選ぶ
兼任管理者にとって一番辛いのは、トラブル時の対応です。「設置して終わり」ではなく、異常検知時のレポートや、万が一の際のリモート保守などが含まれているサービスを選ぶと安心です。
最後に「ルーターがあるから大丈夫」という神話は、残念ながら崩壊しています。
しかし、専門知識がなくても、UTMという「頼れる警備員」を雇うことは可能です。経営者の方から「セキュリティは大丈夫か?」と聞かれたら、次はこう答えてみましょう。
「今のままではリスクがあります。ですが、UTMという機器を一台導入すれば、会社全体を効率よく守ることができます」
まずは、お付き合いのある事務機屋さんやシステム業者に「自社の規模に合ったUTMの見積もり」を依頼することから始めてみてはいかがでしょうか。



